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モバイルゲーム『Angry Birds』の成功から学ぶこと

鳥が飛びさるように素早く、時も飛び去って行くものです。今をさかのぼる10年前、フィンランドの小さなモバイルゲーム開発者リリースしたタイトルが10億以上のダウンロードを獲得し、モバイルゲーム市場を騒然とさせました。

その開発者こそが、Rovioです。

 Angry Birdsの過去を振り返ると、あやふやな点も多いかもしれません。しかしながら確実にいえることは、今や年間500億ドルを超える売り上げを生み出すモバイルゲーム業界の現在が形作られるにあたって、Angry Birdsが果たした役割は極めて大きいということです。

身を粉にした作品づくり

Rovioの前身は、2003年にフィンランドのヘルシンキで開催されたAssemblyのデモパーティーで優勝した3人の学生が立ち上げたインディースタジオでした。後にそのスタジオはRovioと名を改め、大ヒット作Angry Birdsのリリース前に、51タイトルを世に送り出しました。

アプリストアが登場する以前は、モバイルゲームは比較的時間をかけずに開発できる一方で、その市場規模は極めて小さいものでした。そのため、あらゆるゲーム会社は、生き残るために、毎年何十ものタイトルをリリースしなければなりませんでした。

そうした状況においては、51タイトルをリリースしたことは、決して失敗を意味するわけではなく、Rovioがモバイルゲーム業界の黎明期において、むしろ成功をおさめていた証であるといえます。当時モバイルゲーム業界における最大手として君臨していたNokia(後にN-Gage の不振で苦境に追い込まれる)からの大規模な融資のおかげで、Rovioは良好な業績をおさめることができたのです。

Rovioがこうした時代に、最も成功的なモバイルゲーム会社の一つとなったことは、ごく当然の成り行きであるといえます。

Angry Birdsは、わかりやすいゲームメカニクス、新技術の採用、秀逸なユーザーエクスペリエンス、魅力的なキャラクターやサウンドが絶妙に融合したゲームです。いうなれば、Angry Birdsは非の打ちどころのない完全作であり、Rovio内外のあらゆる関係者(初期のパブリッシャーChillingoから、テーマ曲の作曲者であるAri Pulkkinen氏に至るまで)の、不断の努力の成果ともいえるタイトルなのです。

しかしながら、Angry Birdsを成功に至らしめた最も根本的な要因は、Crush the Castleなどのフラッシュゲームで楽しまれていた物理アクションゲーム要素を、AppleのiPhoneやNokiaのN900などの、タッチスクリーン方式のモバイルデバイスに実装したことにあるでしょう。

引っ張って発射するだけ、というシンプルなプレイ方法が、誰にもわかりやすく遊びやすかったことから、幅広い支持を受けることとなったのです。

金銭的バリュー

N900という名前に、今では馴染みのある人は少ないかもしれませんが、Maemoと呼ばれるLinuxベースのOSを実装したNokiaのハイエンド携帯端末であり、当時NokiaのOvi StoreでローンチされたAngry Birdsは、AppleのApp Storeでリリースされた同作品を凌ぐほどの人気を博していました。

しかしながら、北米市場を中心としてiPhoneの人気が高まったことで、Nokiaはグローバルマーケットにおいて徐々にそのシェアを落とすようになりました。一方で、iPodとiTunesの成功を盾に、Appleは着実に頭角を現すようになっていきました。

iTuneの延長線上としてApp Storeが登場したことにより、Appleユーザーは、App StoreでAngry Birdsを99セント(iPad版では1.99ドル)で購入し、何時間もプレイを楽しめるようになりました。さらには無料でレベルの追加やアップデートがおこなわれることから、1楽曲に99セントを支払うiTunesと比べ、コストパフォーマンスに優れたエンターテイメントとして好評を博すことになったのです。

忘れられがちなことではありますが、当時はアップデートを有料化にすべきだという、根強い主張があったのです。結局のところ、ユーザーは無料でより多くの楽しみを得られるようになりました。Rovioの質の高いアップデートにより、Angry BirdはApp Storeで最も費用対効果の高いエンターテイメントとして不動のポジションを確立し、こうした有料アップデートの主張を完全に覆したのです。

フリーミアムと完全無料の違い

その後、Angry BirdsのAndroid版が登場し、アプリ市場は大きな転換期を迎えました。

まず、Angry BirdsはAndroidにおいては無料でリリースされ(こうした背景としては、GoogleがiTunesほどの課金ユーザー基盤を抱えていなかったことが挙げられるでしょう)、後を追うようにしてApp Storeでも無料のライト版がリリースされました。早い段階で莫大なダウンロード数を獲得し、その中で収益化を狙うという仕組みが突如として現れ、あらゆるモバイルゲーム開発者の中で浸透していくこととなったのです。

当時は、一部のコンテンツがロックされているフリーミアムゲームが主流であり、その後数年をかけて、すべてのコンテンツが無料で、アプリ内課金によりゲームの進行を早めることのできるフリー・トゥ・プレイ(F2P)へとシフトしていきました。こうした流れの中で、Angry Birdsは2012年半ばに累計10億ダウンロードを達成し、続いて2014年初めに累計20億ダウンロードを成し遂げ、モバイルゲーム業界全体が世界規模で支持を獲得するようになっていきました。

Angry Birdsの大ヒットを受けて、Rovioはライセンス商品に注力し、ベビー服やTシャツ、料理本からベッドカバーにいたるまでにAngry Birdsの人気キャラクターを入れ込み、さらにはAngry Birdsが登場するコミック、YouTubeアニメ、テーマパーク、長編映画などを展開し、こうした好機を最大限に活用しました。 今年の後半にはAngry Birds Movie2が公開される予定となっています。

イノベーターのジレンマ

Rovioは商業的先駆者として急激な成長を続けていたものの、爆発的に普及したF2Pモバイルゲームにおいては大幅な遅れをとっていました。

ありがちなことですが、Angry Birdsのブランド力をベースにしたビジネスが大きく成功したために、すべてを無料で提供するフリー・トゥ・プレイ方式への切り替えが後回しになってしまっていたのです。

Rovioが、継続率の維持を目的として生み出した数々のイベントや仕組みが世に受け入れられ、結果としてそうした要素が、F2Pゲームを非常に価値あるものにしたという事実は何とも皮肉なことです。例えば同社は、モバイルゲームにシーズナルイベントを入れ込むアイデアを生み出したものの、オリジナルのAngry Birdsではそうした要素を実装することができなかったために、Angry Birds Seasonsという別のタイトルで発売しました。また、Angry Birds Friendsという別シリーズでは、ゲーム仲間とのウィークリートーナメントを導入しています。

当時Angry Birds SpaceやStar Warsなどの新作有料ゲームが次々とヒットし、依然として好業績を出し続けていたRovioは、同業者のSupercell(2012年に初のF2Pゲームをリリースし、現在はスタッフ一人当たりの利益が世界最高ランクとなっている)のように、一から仕切りなおすという選択肢を持ち合わせていませんでした。

2013年末になって、Rovioはようやく初のF2P方式のレースゲームであるAngry Birds Goを、リリースしました。さらに、外部開発者と協働し、RPGジャンルのAngry Birds EpicAngry Birds Transformers 、マッチ3のAngry Birds Fight! などの実験的なタイトルをリリースしました。しかしながら、コアゲームプレイとライブオペレーションを組み合わせたF2Pモバイルゲームとしては、Angry Birds 2 が初の作品となりました。

同タイトルの発売以来、Rovioのゲーム部門は再び安定を取り戻しつつあります。Rovioの目下の悩みの種は、浮き沈みの激しいライセンス活動(現在は大幅に縮小)と、管理不十分なIPOとなっています。

10年間にわたり丹念な作品づくりを行ってきたRovioの例からいえることは、最初に築いた栄光を維持し、成長させていくことが、いかに困難であるかということです。見識豊かなプロフェッショナルでさえ、現在起こっていることに目を向けすぎるがあまり、次に何が起こりうるかを見失ってしまうということが、往々にしてあります。しかしながら、秀逸なブランドは長きにわたり人々を魅了するということもまた事実なのです。

だからこそ、Angry Birdsはこれほどまでに皆から愛される存在でありつづけているのでしょう。