1990年代初頭にコアPCストラテジーゲームを区分するサブジャンルの一つとして登場した4Xゲームは、2013年に米国の開発者MZがGame of War:Fire Ageをリリースして以来、モバイルゲームシーンにおいても欠かせない存在となっています。
上記のタイトルの成功に加え、2015年にリリースされたMobile Strike(およびその後にリリースされた数々の競合タイトル)の登場により、4Xモバイルゲームは従来の4Xゲームの要素である「eXplore, eXpand, eXploit, and eXterminate(探検、拡張、開発、殲滅)」の最終進化版であるといわれるようになりました。
後になって思い起こせば、これは驚くべきことだといえるでしょう。
例えば、マッチ3ゲームはもともとはPCゲームとしてスタートしました(ヒット作Bejeweledは覚えていらっしゃる方も多いでしょう)。しかしながら、タッチスクリーンによる触覚的でダイレクトな操作性を実現したモバイル端末がこうしたゲームに最も適したプラットフォームとされるようになり、キャンディークラッシュは大きな成功を収めました。
しかしながら、こうしたケースは4Xゲームには当てはまりませんでした。
4Xモバイルゲームの成功の決め手となったのは、フリートゥプレイのビジネスモデルに、モバイル端末の特性である高い携帯性と常時接続性、10億ドル超を売り上げたGame of Warのような強力なユーザーコミュニティを組み合わせることで実現した秀逸なメタゲーム要素でした。
高いエンゲージメント
MZが(当時の名称はAddmired)モバイルゲームの開発以前に、出会い系アプリとサービスを手掛けていたことは注目すべき事実です。こうしたアプリやサービスは商業的成功には至らなかったものの、Game of Warの全世界のユーザーとのチャットの同時翻訳機能(プレイヤーによるクラウドソーシング)にそのノウハウが生かされていることがはっきりとわかります。
また同社はそうしたノウハウをプレイヤーの同盟システムにも生かし、ゲームを効率的に進める上で、同盟への参加を避けては通れない道としました。こうした同盟に加わることで、メンバーの誰かが課金アイテムを購入したときに、同じアイテムがメンバー全員に無料配布されるといった大盤振る舞いのオファーを受けられたりと、数々のメリットが享受できる仕組みとなっています。
プレーヤーの課金欲を底なしにかきたて、 120000ドル以上をつぎ込んだプレーヤーが現れたことでも話題になったGame of Warは、秀逸なマネタイズデザインで莫大な収益を生み出し、モバイルゲームの最終形態ともいえる存在として、その後に続く4Xゲームの大きな手本となったことは間違いありません。
Plarium(Vikings)、Elex Wireless(Clash of Kings)、FunPlus(King of Avalon)といったゲーム会社はある程度の実績を出しているものの、こうした複雑でソーシャル要素の強いゲームで成功を収めることがいかに困難かは、Zyingaや人気海外ドラマBreaking Badのライセンスゲームを手掛けたScopelyなどの大手が4Xゲームをソフトローンチしたものの、熾烈な競争に勝ち抜けず、開発の中止に至っていることからも明らかです。
より最近では、人気の海外ドラマであるウォーキングデッドを原案として開発された、Disruptor BeamのThe Walking Dead; March to Warが安定した収益を得られずに、2019年1月31日にサービスの中止を決定しています。
膨れ上がる広告費
4Xモバイルゲームの成功においては、プレイヤーの期待に応えるために十分な規模のプレイヤーベースを確保していく必要があり、そうしたことがどれほどまでに困難かがここ数年の間で明らかになってきています。
再度MZを例にとると、同社は数百万ドルを投入し、Kate Upton、Arnold Schwarzenegger 、Mariah Careyといったスターを起用した映画スタイルの広告を制作し、ユーザー獲得における新たな決め技を生み出しました。年間数億ドルにもおよぶ広告費をつぎ込み、ゲーム内広告はもちろんのこと、スーパーボウルなどの注目度の高いイベントの期間中に集中的なテレビCMの出稿を行っています。2015年と2016年において、MZは米国で最も多額の広告出費を行ったゲーム会社でした。
また、2017年の半ばに MZがスクエアエニックスのライセンスゲームであるFinal Fantasy XV: A New Empire(ファイナルファンタジーXV:新たなる王国)を発売した際には、利ざやの大きいゲームに広告費を集中的に寄せるという手段がとられました。
ファイナルファンタジーXVのローンチサポートのために、MZはGame of WarとMobile Strikeのあらゆるマーケティング活動をストップしました。その結果として、両作品のアプリストアのダウンロードランキングは急落することとなりました。現在の両ゲームのランキングはトップ100圏内に入ってはいるものの、世界トップ5をキープしていた頃と比べ大幅な下落が見られます。
一方でファイナルファンタジーXVはMZの新たな大ヒット作となりました。旧作ほどの多額な広告費は割かれなかったものの、米国の売上ランキングでトップ20入りを果たしており、こうしたことを踏まえると、同作品はより収益性の高いゲームであるといえるでしょう。
今後の動向は?
ライセンスゲームへの移行は、4Xゲームが幅を利かせるモバイルゲーム市場全体にみられるキートレンドです。かつてのモバイルゲームの様相は現在とは異なり、主に若年層のオーディエンスに支持されており、ゲーム会社は多額のマーケティング資金を割くことに力を入れてはいたものの、ライセンスゲームであるかどうかはあまり重要視していませんでした。
業界が成熟するにつれ、ライセンスゲームはより効率的なマーケティングと容易なターゲティングを叶える1つの手段として定着するようになりました。しかしながら、The Walking DeadやBreaking Badの4Xゲームの不振からもわかるように、それだけでは十分とはいえません。
4Xゲームは同盟システムに依存したエンゲージメントの構築とマネタイズで、これからも成果を出し続けられるのでしょうか。あるいは、これまでのスタイルに執着せず、オーディエンスの規模拡大を狙い、ARPUの下落には目をつぶりつつ、UAを念頭に置いたターゲティングを行っていくのがよいのでしょうか。こうしたことが目下の業界の最大の課題とされています。
多くの場合において、アジアの開発者は、4Xのゲームメカニクスにより磨きをかけることを最重要視しているように見受けられます。そうした意味で、Call of DutyにおけるELEXとAcitivisionの提携が、今後どのような変化をもたらすかに注目していきたいところです。
一方で欧米の開発者は、ゲームの難易度を下げ、キャラクターとストーリーラインにより重きをおき、行き過ぎたマネタイズを押さえる傾向にあります。こうしたアプローチの好例が、Scopelyの最新作であるStar Trek:Fleet Commandです。Breaking Badの失敗から学んだ教訓を生かし、より簡単なゲームプレイで4Xのハードルを下げ、Star Trekのキャラクターとストーリー性に重点を置いた構成となっています。