【モバイルアプリ中国進出ガイド】活況を迎える中国のゲーム配信マーケット―KOL・KOCから実力派ゲーム実況者まで一挙解説

2020-06-18

ゲーム業界の市場、開発、人材、流通 4つの観点から、日々の最新ニュース、特集、連載企画を配信するゲームビジネスの明日を考えるメディアの「Gamebusiness.jp」にて、Nativexの寄稿記事が掲載されました。


中国でインフルエンサーマーケティングが盛んになっていることは、既に多くのゲームマーケターやエンジニアはご存知でしょう。専門性の高さで多くの支持を集めるKOL(キーオピニオンリーダー)や中国版YouTuber「網紅」(ワンホン)など、SNSで数百万のフォロワーを持つ若いインフルエンサーたちが多数活躍しています。

一説によれば、2018年に「網紅」が動画ライブ配信で叩き出した売り上げは676.6億元(約1兆円)に上るといい、中にはたった1回のライブ配信で2,000万元(約3億2,000万円)を売り上げた強者もいるのだそうです。こうした波はゲーム業界にも波及しています。

そこで、中国市場への理解・進出を考えている関係者に向けたコラム「モバイルアプリ中国進出ガイド」の第2回では中国のゲームインフルエンサー事情について、連載1回目に続いてゲームアプリなどの中国進出を支援する中国最大のアドネットワーク企業、Mobvista(モビスタ)日本法人のゼネラルマネージャーを務める岩田行雄氏に解説していただきます。

中国はモノ消費から極端に偏ったヒト消費へ

2019年4月、衝撃的なニュースが業界を駆け巡りました。それは、米Amazonが中国のEC市場から撤退したということです。もともと中国には、マスメディアの情報を鵜呑みにしないカルチャーがあり、家族や友人・同僚など身近な人の口コミを信じる傾向が根強くありました。

そこに昨今のインフルエンサー人気が重なり、日本で当たり前の「テクノロジーのレコメンドを信用してモノを買う」モノ消費が鳴りを潜め、「大好きなヒトがおすすめしていたコト」を重視するコト消費がより一層、活発になってきているのです。

ゲーム市場にもポストKOLの波が到来

中国のインフルエンサーの中で今特に注目を集めているのが、KOLの一種でポストKOLと言われる「KOC(キーオピニオンコンシューマー)」の存在です。

中国でKOLと言うと、一般的には数百万のフォロワーを集める“憧れの存在”です。一方、KOCはあくまでも一般消費者もしくは消費者に近いヒト。コンシューマー目線で商品の使用感を文章やショートムービーで投稿するのが特徴です。一人ひとりのKOCが抱えるS NSのフォロワーは数百人からとそれほど多くないものの、友人や家族とのやり取りをオープンにしたり、リアルな使用感を率直に投稿したりするため、口コミを重視する中国マーケットで大きな影響力を持っています。

現在、中国のマーケティング業界ではKOCも含めたKOLという手法を広告主が重宝しており、これからも伸びていくことが予想されています。ゲーム業界では、ゲームのローンチ時の認知拡大や、運用型広告が効かなくなってきた時の起爆剤として、KOLやKOCが活用されることが多くなっています。

たとえば、2019年7月にスマートフォンメーカーHuaweiのサブブランド「Honor(栄耀)」から、スマートフォンの新機種「Honor 9X」「Honor 9X Pro」が発売されました。ハイエンドなフラッグシップ端末というだけでなく、ゲーミングスマホとして最適であることをアピールするためKOCを用いたキャンペーンが行われました。

実施されたキャンペーンは、あえて容量が大きく高い解像度を要求するスマホゲームを選定し、「Honor 9X」で快適にプレイしているショートムービーをゲーム好きのKOCが投稿するというもの。一人ひとりのトラフィックはそれほど大きくないものの、そうしたKOCの投稿を束ねると累計1億以上の露出に繋がり、数十万人がオンラインで「Honor 9X」を購入する結果となりました。低価格なスマホでリッチなゲームを楽しみたいという若者ユーザーにこのキャンペーンは奏功し、大きな売り上げを記録したそうです。

国外へ広がる中国のライブストリーミングプラットフォーム

中国のゲームマーケットでは、Twitchのようなライブストリーミングプラットフォームが大きな影響力を持っていることはご存知の通りです。その代表格は、「Huya(虎牙)」、「Chushou(触手)」、「DouYu(斗魚直播)」の3つです。こうした配信プラットフォームでは数々のe-Sportsトーナメントが開催され、中国国外の企業もその可能性に注目しています。

たとえばTencentが出資する「Huya」は2018年5月に米ニューヨーク証券取引所に上場し、1億8000万ドル(約197億円)を調達しました。「Chushou」はGoogleから1億2,000万米ドルの出資を受け、「DouYu」は2019年8月に三井物産と組んで日本進出に向けて計画を進めています。

こうしたライブストリーミングプラットフォームのユーザーはほとんどが10~20代。男女比は7:3となっており、中国のゲームプレイヤーにリーチする上で最適のプラットフォームとなっています。

中国のライブストリーミングプラットフォームで最も人気のゲームは「王者栄耀(Honor of Kings)」。5,000万人以上のプレイヤーを抱え、中国国内の登録者数は2億人を超えています。ご存知の通り、このゲームは7月に株式会社ポケモンと新作ゲームを共同開発すると発表したテンセントゲームスが開発したものです。

日本でも多数のゲーム実況者が人気を博していますが、中国にも影響力の大きいゲーム実況者がたくさんいます。彼らの多くは、90年前後生まれの25~27歳くらいの若者です。その代表的な存在として、女性実況者「冯提莫( Feng Ti Mo)ホンティーモ」と男性実況者「PDD」があげられます。こうした実況者もKOLやKOCに該当します。

「冯提莫(ホンティーモ)」は、はじめはよくいるゲーム実況者のひとりでしたが、そのルックスと歌唱力からまたたく間にスターダムを駆け上がりました。今では毎月の収入が約80万元(約1,360万円)に上るとも言われています。彼女は全身の動きを伴うKinectのゲームや得意の歌を披露するミュージカルモーションゲームの配信が多いのが特徴です。

もともと上海のクラブで働いていたという「PDD」は、小さい頃からゲームが大好きで、長年ゲームで生計を立てたいと考えていたと言います。そこで「リーグ・オブ・レジェンド」をメインにめきめきとゲームの実力をつけ、数々のe-Sports大会で優勝する世界有数のプレイヤーとなりました。今では企業のスポンサードを獲得するほどになり、年収は400万ドル以上になったそうです。28万ドルを寄付して、学校を建設するなど社会貢献も行っています。

「PDD」が抱える「DouYu」のフォロワーは1000万人超。彼の強気な実況スタイルは多くのファンを夢中にさせ、盛大なファンミーティングや交流会が開催されるほどの熱狂ぶりです。

中国には数多くのインフルエンサーがおり、個々人によって得意とするゲームも、抱えるファン層も異なります。やみくもにフォロワー数の多いインフルエンサーに頼めばいいということではなく、影響力や専門性、ファン層などをよく見極める必要があるでしょう。ゲームのインフルエンサーマーケティングを中国で行う際は、中国に精通するエージェンシーやパブリッシャーと連携し、適切なキャンペーン方法やKOL、KOCを選定する必要があるでしょう。

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