2023年のラマダンは、ブランド・デベロッパーがムスリムにリーチする絶好の機会となります。本稿では、中東・東南アジア市場におけるショート動画マーケティングのトレンド、効果的な広告クリエイティブについて解説します。このチャンスをつかみ、さらなるユーザー拡大を図るうえでお役立てください。
ここでは、次の三つの側面から2023年ラマダンのマーケティングの新たな動向について解説していきます。
- 中東市場・東南アジア市場におけるラマダンマーケティングトレンドの動向
- ラマダン中のショート動画マーケティングの活用とクリエイティブ制作の手法
- 素材クリエイティブによるさらなるユーザー拡大の実現
それでは早速、2023年のラマダンで、ショート動画マーケティングによって中東・東南アジア市場における機先を制する手法について見ていきましょう。
世界で約16億人に上ると言われるムスリムにとって、1年で最も重要な行事がラマダンです。イスラム教におけるラマダンは、欧米におけるクリスマスのように、1年で最も祝福すべき神聖な期間なのです。
重要な文化的・宗教的行事であるラマダンは、プロモーションにまたとない機会ともとらえられています。ブランド・デベロッパーにとって、ラマダンがムスリムという莫大な数のユーザー層にリーチし、関係を築く絶好の機会であることには疑いがありません。
ラマダンとは
ラマダンは「断食月」という意味で、ムスリムはこの月に斎戒します。この間、ムスリムは「コーラン」の啓示を祝うため、日中は飲食を断ち、祈祷や慈善行為を行うのです。日が沈むとはじめて食事をとり、その後はまるで新年を迎えたかのように、娯楽や社交を盛大に楽しみます。
これまでの年と比較して、2023年のラマダンにはどんな新たな変化が生じているのか?海外ブランド・デベロッパーにとってのチャンスにはどんなものがあるのか?素材クリエイティブによってさらなるユーザー拡大を図るにはどうすればよいか?続いては、2023年ラマダンのチャンスをつかむ手法について、三つの側面から見ていきます。
- 2023年ラマダンの新トレンド
- ラマダンにおける効果的な広告クリエイティブ
- ラマダンにおけるクリエイティブマーケティングの実践方法
2023年ラマダンの新トレンド
旅行需要の急激な回復
コロナ禍の影響が落ち着くとともに、休暇中に旅行する人が増えつつあります。調査会社YouGov Surveysの最新の調査結果によれば、インドネシアの消費者の45%が今年のラマダン中に旅行・帰省を計画しています。3月初め以降、モルディブ、アラブ首長国連邦といった人気旅行先のフライト・宿泊需要が急激に高まっています。
ムスリムのオピニオンリーダーの影響力増大
ムスリムのインターネットユーザー数が増えるとともに、ムスリムのオピニオンリーダーの影響力も強まっています。ラマダン中にラマダンをテーマとしたコンテンツを制作するムスリムのオピニオンリーダーも増えています。また、ソーシャルメディア上のラマダンに関するコンテンツも、例年以上に多くなっています。中でも、TikTokではハッシュタグ#Ramadan2023の動画が累計91億回再生されています。
強まる「伝統・家庭への回帰」の傾向
ユーザーの家庭への関心は、今年のラマダンで最も注意すべきトレンドの一つと言えるでしょう。ラマダンは家族が一堂に会して信仰を祝う期間であることから、家庭の絆の重要さを訴えるコンテンツが注目を集めるようになっています。これに関連するもう一つの注目すべきトレンドとして、「伝統への回帰」があります。急激に変化していく外の世界とは対照的に、人々は「安定」と「慣れ親しんだもの」を強く求めるようになっているのです。ラマダン中には、伝統的な価値観や慣習を前向きにとらえたコンテンツが、オーディエンスに強い共感を呼び起こします。
「社会還元」やポジティブコンテンツを前面に
「社会還元」は、ラマダンの伝統的な重要テーマです。ソーシャルメディアでも、公共メディアでも、「必要とする人への善行の施し」「社会的に価値ある事業への貢献」といった「社会還元」を訴えるコンテンツが増えつつあります。
また、行事と関連したコンテンツやシェア数が大きく増える中で、ポジティブで前向きなコンテンツも増加し、ネガティブなニュースなどのコンテンツの需要は大幅に落ち込みます。ムスリムの人々は、この神聖な期間にはネガティブな情報をできるだけ遠ざけ、心の中の信仰に目を向けようとするのです。
トレンド+クリエイティブ素材=ラマダン中のユーザー拡大
どうすれば2023年ラマダンのトレンドを踏まえ、ターゲットオーディエンスの関心を集める独創的なクリエイティブ素材を制作できるのでしょうか。Nativex傘下のクリエイティブブティックTopWorksが示す、新しいクリエイティブ素材の形をいくつか以下にあげてみます。
- 料理動画
- 市場訪問動画
- 贈り物開封動画
- 贈り物をテーマとしたミニドラマ
- メイクビフォーアフター/衣装試着動画
料理動画
「伝統・家庭への回帰」という傾向が強まる中、ムスリムユーザーの多くが自宅で食事を手作りするようになっており、料理動画への注目が高まりつつあります。
ラマダンの伝統食の調理プロセスをVlogで紹介し、没入感と食べ物の魅力的なビジュアルによってユーザーのコンテンツへの関心を大きく高めている動画が目立ちます。
クリエイティブのポイント:よどみなく簡潔にまとまった動画が視聴完了率向上のカギとなります。動画では、ユーザーに最後まで視聴してもらうため、できあがった料理を最初に示すことをおすすめします。撮影時には没入感を高めるため、料理から立ち上る湯気を画面内にとらえるようにします。 |
クリーンショット:TikTokユーザー @lillyskyx
市場訪問動画
旅行需要の回復とともに、ラマダンに合わせてオープンするグルメ市場への関心も高まっています。市場を実際に訪問し、一人称視点で伝統食を探すことで、ムスリムユーザーに自宅にいながらにして伝統文化を感じてもらうのです。
クリエイティブのポイント:市場のにぎわいや食べ物の多様さを視覚・聴覚で表現すること。屋台、人物を食べ物と合わせてとらえることをおすすめします。「食べ物をカメラに食べさせる」という動きによって、没入感を大きく高めることができます。 |
スクリーンショット:TikTokユーザー @apeakfood
贈り物開封動画
ラマダンは共有と還元の行事であり、この期間に贈り物を贈り合う習慣があることから、ラマダンと関連したギフトセットの販売やクーポンの提供がよく行われます。
ソーシャルメディアでの贈り物開封動画配信によって、ユーザーの関心や注目を引きつけることができます。流行の音楽に合わせて箱を開き、中に入っている商品を一つ一つ示しながら詳しく紹介していきます。メインコンテンツを最後に配置することで、オーディエンスの意表を突くこともできます。
TikTokでは、ハッシュタグ #unboxing の再生回数が累計454億回に達しています。開封動画の魔力は、赤の他人が届いたものを開封する動画が、多くのオーディエンスにえも言われぬ快感を呼び起こすという点にあります。その快感は贈り物の包装が一つ一つ開けられていくたびに高まっていき、中の商品が姿を表した瞬間に最高潮に達します。
クリエイティブのポイント: 商品を間近で、明るく、焦点をしっかり合わせて示すことがカギとなります。視覚で伝わらない感覚については、「生地がとても柔らかい!」のようにボイスオーバーで表現しましょう。このほか、動画への注目度をさらに高めるため、ASMRクリエイティブ動画からインスピレーションを得るのもいいでしょう。 |
スクリーンショット:TikTokユーザー @aydagifts_
贈り物をテーマとしたミニドラマ
非日常的な行事であるラマダンでは、他人への贈り物が非常に大きな意味を持ちます。贈り物をテーマとしたシナリオはムスリムの文化と強く結びついたものであり、独創的な工夫を取り入れれば、ムスリムユーザーの商品への強い関心を呼び起こすことが可能になります。
クリエイティブのポイント:プロットはラマダンの伝統要素との関連性が高いものとすることをおすすめします。「どんでん返し」を設けることでコメディ感を増すことも可能ですが、宗教的なタブーに触れないよう、笑いのポイントには気をつける必要があります。 |
スクリーンショット:TikTokユーザー @amar.leyla
メイクビフォーアフター/衣装試着動画
ムスリムはラマダン中の夜には、一堂に会して祈祷を行うことが一般的です。家族や親しい知人の前では、人は自分の一番美しい姿を見せたいと思うものです。このため、メイク・ファッション系のクリエイティブ動画は、多くのトラフィックを集める傾向があります。
クリエイティブのポイント:商品の品質をアピールするため、ビフォーアフターではっきりとした違いを示す必要があります。メイク前の素顔が差別などの意味にとらえられないよう、注意しましょう。 |
スクリーンショット:TikTokユーザー @lijingmakeup
クリエイティブのポイント:一人称視点でオーディエンスにラマダンの伝統衣装を紹介します。「試着」という手法によって、ラマダン用衣装の風合い、大胆な色使い、仕立てをオーディエンスに余すところなく感じてもらいます。 |
スクリーンショット:TikTokユーザー @imsay.b
ラマダンにおけるクリエイティブマーケティングの実践方法
ラマダンの伝統と強く結びついたものであること
「ラマダン」用の素材は、イスラム教の伝統と強く結びついた、明確な特徴を持ったものである必要があります。
配信する素材にはまず、ラマダンと関係する代表的な視覚シンボルを数多くちりばめましょう。こうした視覚シンボルとしては、ミドファ・アル=イフタール(日没後の食事の始まりを告げる大砲)、モスク、アラビア風のティーポット、ランタン、三日月などがよく用いられます。これらのシンボルは、背景画像の中心的な要素として用いられることが多く、ローカライズにおいて高い効果を発揮します。
次に、ラマダン中に使われるあいさつも広告コピーとしてよく用いられます。単独の画像・拡大画像や動画素材のランディング先では特に目立ち、「恵み多いラマダン、おめでとう」という意味の「ラマダン・カリーム」が最も多く使用されています。
動画専用BGMの制作
ラマダン中に配信される画像・コピー素材のBGMとしては、ラマダン商戦期に高まる消費ムードに即した、エキゾチックなアラビア風の音楽が用いられるのが一般的です。また、eコマースプラットフォームの中には、消費者に強くアピールするため、一度聞いたら耳から離れない、ブランド・ラマダンキャンペーン用のにぎやかなBGMを制作しているところもあります。こうした素材は話題を呼びやすく、全体的な配信効果も高くなります。
重要情報のアピールによるコンバージョン促進
商品のセールスポイントに関して、ラマダン中に各eコマースプラットフォームが消費者に伝えようとする最も重要な情報は、何と言っても「抜群のコストパフォーマンス」であり、配信素材の中でもさまざまな手法で表現されます。
①販売価格の割引、キャッシュバック、ポイント倍率アップなどのキャンペーン情報を配信コンテンツの中心に据えます。特に数字に関してはフォントを大きく太くして目立つ位置に配置するといったシンプルかつ分かりやすい手法で、消費者の注意を引きつけます。
②配信素材では、「新規ユーザー獲得」のためのコンテンツが大きなウェイトを占めます。新規ユーザー向けのキャンペーン情報はeコマースプラットフォームのラマダン商戦期のマーケティングコンテンツの一つとなっており、うたい文句としては「期間限定販売」「無料贈呈」「ラマダン限定割引」などが中心です。
③配送・決済などの契約履行サービス上の優位性もマーケティングにおける重要なセールスポイントとされ、一部では「迅速配送」「代引き」「無料配送」などもうたっています。
中東と東南アジア市場はより複雑な文化背景を有し、消費トレンドも急速に変化しています。Nativexは多数のクライアントの海外事業を後押しているため、ご興味ある方はいつも大歓迎です!