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モバイルゲーム開発の変遷

 中国におけるゲームリリース承認プロセスの凍結という大事件がありながらも、2018年はモバイルゲームにとって非常に重要な節目となった1年でした。2010年の時点においては、モバイルゲームの収益が全体に占める割合はごく僅かなものでしたが、現在では年間1300億ドルを超えるグローバルゲームマーケットの中で、最大かつ圧倒的なシェアを占め、依然として急成長を続けるセクターとなっています。

しかしながらこうした流れは、すべてのゲーム開発者にとってプラスとなったわけではありません。アプリストア配信における勝者独占型のビジネスモデルは、持つものと持たざるものの間に、ますます大きな差を生み出す結果となったのです。

こうしたことから、モバイルゲーム開発者に対する価値基準が変化しつつあることは明白で、活発化する買収活動やIPOなどの企業活動にこうした傾向がよく表れています。

リスクと報酬のバランス

いかなる業界においても同様のことがいえますが、真の魅力ある取引は、市場がどれほどの規模にまで成長するか、またどの企業が勝者になるかといった要素において、不確実性が高い時点、つまり、サイクルの早い段階で生じます。

たとえば、2005年のスマートフォンが登場する以前の時代に、EAは6億8000万ドル(現在の約9億ドルに相当)で、NASDAQに上場したモバイルゲームパブリッシャーJAMDATを買収しました。.

JAMDATの当時の売上高は推定約8000万ドル程度であり、投機的な色合いの濃い買収活動とされましたが、結果としてJAMDATはEA Mobileの初期の成功をもたらす基盤となったのです。

2014年末には、Zyngaが英国に拠点をもつスタジオNaturalMotionを5億2700万ドルで買収しました。同スタジオは当時の主力タイトルであったCSR Racingがランキング上位に食い込み、次なる成功を狙いRTSゲームのDawn of Titansの開発を進めていました。しかしながら、その当時のNaturalMotionの年間売上は3000万ドル未満で、そうした売り上げの中にモバイルゲームによる収益は含まれていませんでした。

こうしたことから、EAはJAMDATの年間売上高の約9倍の金額を払い、ZyngaはNaturalMotionの年間売上高の約20倍を支払ったということがわかります。

(ただし、利益は再投資可能なフリーキャッシュであることから、厳密には企業利益と買収金額とを比較するべきであるといえます。しかしながら、多くの場合において、収益データは非公開となっていることから、本記事においては、上述の2企業の利益率が同等であると仮定し、試算をおこないました)。

こうしたZyngaのNaturalMotionの一大買収劇の裏側には、2014年のモバイルゲーム業界が、現在よりもはるかに不確実性に満ちていたという事実があります。当時は、スマートフォンの出荷台数が右肩上がりの伸びを見せ、App StoreとGoogle Playのスムーズな配信システムの恩恵により、モバイルゲーム分野が成長軌道に乗り始めた時期であり、この頃、Clash of Clans、Game of War、パズル&ドラゴンズ(パズドラ)などが10億ドル規模のゲームへと着実な成長を遂げていました。

こうした状況下では、NaturalMotionの買収額は非常に高額であり、当時のZyngaの銀行での保有資産が約9億ドルであったことを踏まえると、同社は大胆な賭けに出たといえるでしょう。実際に、Zyngaは過去10年間で最も活発な動きを見せるディールメーカーであり、これまでに10件以上の大規模な買収取引をおこなっています。

バランスを見いだす

また、Zyngaの直近の買収取引を見ていくと、過去4年間で取引の動向に大きな変化が生じていることがうかがえます。

2018年末にZyngaはフィンランドの開発者Smalll Giant Gamesの80%を5億6000万ドルで買収し、Small Giant Gamesの企業買収価値は7億ドルと評価されました。NaturalMotionよりも大きな取引でありながらも、Empires & Puzzleの商業的成功を受け、Small Giantは加速度的に市場でのプレゼンスを増すこととなったのです。

Small Giant Gamesの推定年間売上高は約1億9000万ドルとされ、現在も急激な成長を続けていることから、ZyngaのSmall Giant Gamesの評価額は安くはないものの、決して高いわけでもないといえます。

実際に、この表からもおわかりいただける通り、2015年以降、1億ドルの取引であれ、90億ドルの取引であれ、売上高に対する企業評価額は2.5倍から3.7倍の範囲となっています。

(※仮に利益率を25%とすると、利益に対する企業評価額はおおよそ1015倍に相当するでしょう。)

したがって、とくに西洋諸国などにおいて、モバイルゲーム市場が成熟期に突入していることを想定すると、すでに収益性の高いタイトルを保有し、さらなる規模拡大を狙うことのできる開発者は、非常に強い立場にいるということができます。

Zyngaのような、キャッシュ、株式、そのほかの融資を利用できる企業(前述の取引の際にZynga42000万ドルのキャッシュを保有しており、現在は2億ドルの銀行融資枠を保有)にとっては、こうした取引は素早く収益を拡大させる上で、リスクの低いオプションといえるのです。

確かに、次なるEmpiresPuzzlesクラスのヒット作を生み出す開発者が登場する可能性は極めて高いでしょう。しかしながら、それはまた、モバイルゲーム開発者の大多数、とくに、実績のない開発者の価値がそれに比例して減少しているということでもあるのです。

株式公開

しかしながら、他社によるモバイルゲーム企業の買収が、唯一の評価手段となっていることは事実であり、近年では、かなり小規模の企業でさえもが、証券取引所で株式を公開するようになっています。米国ではScopelyJam Cityなどのパブリッシャーが、2019年のIPOに向けて準備を進めているといわれています。過去に遡り、こうした実例を見ていきましょう。

2017年は、さまざまな規模の4つの企業が新規上場し、非常に活発な動きが見られた1年でした。最大規模となったのは、韓国のパブリッシャーNetmarbleで、上場後の時価総額は110億ドルに達しました。また、スウェーデンのインディーゲーム開発者のMag Interactiveの上場後の時価総額は13000万ドルでした。

興味深い点は、これらの企業のIPO株価での評価額には、前述の買収取引と非常によく似た傾向が見られるということです。例えば、Rovioの売上高に対する評価額は2.9倍、Netmarbleでは5倍となっています。

異なる点は、企業のM&A活動においては、買主と売主が取引を成立させるために交渉をおこなうのに対し、企業が証券取引所で上場した場合には、その価値が市場の力によって毎日変動するということです。

こうしたことから、2017年に上場した4つのモバイルゲーム関連企業のそれぞれが苦戦を強いられています。例えば、RovioUA戦略において投資家の賛同を得られず、結果として大幅に株価が下落したことは、注目に値する事実です。いずれの企業も上場後の競争の激しい市場で、ますますかさむコストとともに、オペレーションを行わなければならないという現実に直面させられることとなったのです。

Next GamesMag Interactiveのパフォーマンスからわかるように、こうした流れは中小企業にとって特に苦しい状況を生み出しました。Netmarbleと同様に、これらの2社も、上場後の売上高が減少しており、さらにNetmarbleと比較して小規模であることから、市場センチメントの影響をより強く受け続けています。

結果として、2017年と比較し、4社すべての時価総額/売上高の相対価値が減少しています。

すべての取引に通ずるたった一つの真実があるとしたら、それは「タイミングこそが最も重要」ということかもしれません。